判決をめぐって
今日、13時30分、薬害C型肝炎訴訟の判決が大阪地裁であった。
判決は、要旨によれば次のとおり。
- フィブリノゲン製剤でのHCV感染者について
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- 昭和60(1985)年8月以前に感染した原告(3人)の損害賠償請求は棄却
- 昭和60年8月のウイルス不活化処理変更〜昭和62(1987)年4月に感染した原告(4人)の請求は、三菱ウェルファーマ(ベネシス)に対してのみ認める
- 昭和62年4月以降に感染した原告(5人)の請求は国、三菱ウェルファーマ(ベネシス)双方に対して認める
- 損害賠償請求を認めた9人の原告のうち、輸血を併用した原告に対しても、フィブリノゲン投与とHCV感染の因果関係を認める
- 損害賠償総額は2億5630万円と遅延損害金
- 第IX因子複合体製剤(クリスマシン)でのHCV感染者について
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- 請求は棄却
昭和60年8月は国に届けなく旧ミドリ十字がフィブリノゲンのウイルス不活化処理を変更した時期だ。昭和62年4月は、国の再評価調査会が非加熱フィブリノゲン製剤の有効性、安全性、有用性に強い疑問を抱き、肝炎の集団発生も報告されていた時期で、このとき国は後天性の低フィブリノゲン血症に対する製剤の適用除外を行わなかった。
主文読み上げの時は、傍聴席で聞いて、あれ、何で国の賠償が出てこないんだと不思議に思ったが、要旨を聞き、後で読んで、やっと理解できた。
判決要旨は、フィブリノゲンに関して、国と製薬会社の責任を問わなかった時期においても、昭和39(1964)年の製造承認申請での添付資料はずさんだったとされているし、国の再評価手続が遅れたことや米国での製造承認取消の情報収集を怠ったことに対しても一定程度批判が加えられている。ただ、それらは違法とは言いがたいとの評価だった。
判決文そのものは1200ページ、うち裁判官の判断を記述しているのは800ページにわたる膨大なものだそうで、要旨のみでの判決の評価は本来しがたいもののようだ。素人の強みで、それでもあえて書くなら、少なくとも私の体験などとは、おそろしくギャップのある判決だなあというのが正直なところだ。
ところで、今回の判決に関する朝日新聞の報道記事によると、クロロキン訴訟で最高裁が示した国の責任に関する基準は、「医薬品としての有用性が肯定される場合の製造承認は適法」で、「副作用防止のために必要な権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠く場合は、国に賠償責任が生じる」とのことだ。
私の場合、フィブリノゲンの投与による血清肝炎(これは当時聞いた言葉で、B型肝炎とC型肝炎を総称している)罹患の警告は、昭和52(1977)年頃に新潟大学の血液専門医から聞いていた。これは頻回投与による罹患の危険性というより、凝固因子製剤そのものがもつ危険性と思われる。肝炎ってどんな病気かわからないけれど、とにかく何か恐ろしい病気のようだと子供ながらに思った。これが医療の現場での一般的な認識で、国もこのことは当時から認識していたはずだ。ということは、少なくとも一般患者への投与に対しては、「副作用防止のために必要な権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠く場合は、国に賠償責任が生じる」という部分がかなりひっかかってくると思うのだが、どうだろうか。司法というのは非常に厳密なもので、それなりの詳細な検討をした結果の判決であることは私も承知しているつもりだが、自分の体験とはかなりのギャップがある印象が、個人的には否めない。
クリスマシンにしても、薬害HIVのいわゆる第4ルート感染の主役といえる製剤で、複合体製剤の名の通り、数種の凝固因子を含む製剤として、当時の医療現場では割によく使われていたようだ。言い換えると便利使いされていたのだ。「とりあえずクリスマシンでも」といった投与もかなりあったはずだ。それに対して監督責任が問われないというのも、ちょっとという気がする。なお、現在あるクリスマシンは複合体製剤ではなく、凝固第IX因子しか含まない製剤となっている。
しかし、判決がどうであれ、200万のHCV感染者が日本にいるとされることは変わりない。治療対策、患者救済対策を国が今以上に行うべきなのは、判決がどうでても揺るがないはずだ。
さて、ここからは余談。先ほど朝日新聞の今回の記事の一部を引用したが、この記事は実をいうと、今日の午前中、つまり判決前には九分九厘でき上がっていた。http://www.asahi.com/national/update/0621/OSK200606210035.htmlを読むとわかるが、長いけれどもほとんどが判決前でも書ける、意地悪くいうと埋め草的内容となっている。実は私が傍聴券をもらうのに並んでいたとき、隣に並んだのが新聞記者で、この下刷りを確認していたのだ。判決の部分の記述は×印だったか、*だったかになっていて、「判決後に入れます」との注が入っていた。どこの記者かはわからなかったが、帰宅してWebを見て、「朝日だったのね」と思った次第。新聞記事はこんなふうに作られるのかと舞台裏をかいま見た。
もうひとつ。判決後は報告集会があって参加した。そこで近々判決が出る福岡訴訟の原告弁護団を代表してトクダ(漢字がわからない)氏という弁護士が、今回の大阪の判決についてコメントした。そこで出た言葉が「効かないくすり」だった。もちろんフィブリノゲンのことだ。この言葉を言われると、先天性患者の私は大変嫌な気分になる。氏は今回の判決を「臆病な判決」と評したが、彼は何とも「勇ましい」弁護士だ。
この際だから書かせてもらうが、こちらはこのくすりが効いて、手放せないからかえって辛いのだ。福岡は寺尾証人の反対尋問の時、一度傍聴して、そのときも支える会の学生が、この言葉を連発しているのを聞いた。暗澹たる気持ちで帰りの新幹線に乗ったことを今も覚えている。こうした人たちは、日本に50人程度しかいない病気の患者が、まさかその場にいるとは、思いもしないのだろうし、そんな人間に、この訴訟がどんな影響を及ぼしているか、考えたこともないだろう。先天性患者がいること自体知らないのかもしれない。私は同じ先天性無(低)フィブリノゲン血症の患者さんと多少の横のつながりもあるが、今回の訴訟については否定的な意見しか聞いたことがない。今日も、もう自分の病名がひとに言えない、肝炎のニュースも見たくないというメールを、ある患者さんからいただいた。
前回の記事にも書いたけれども、この裁判の支援者面は、ほんとはもうあまりしたくないなあと思っている。私のWebページも以前「薬害肝炎訴訟を支援します」という記事があったが、福岡でのできごとがあってから、「薬害肝炎訴訟について」と名前を変えた。
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コメント
すべての薬剤に該当する事実ですね。
悪魔のように言われるサリドマイド、イレッサも一時的にかも知れませんが、必要な方にはたいそう大事なお薬だとの主張もあります。
患者団体のお世話係としては、療法の言い分の患者さんがいて、対応に追われる毎日です。
22日は東京に行ってきました。
投稿: sin | 2006年6月23日 (金) 10時52分
コメントありがとうございます。
sinさんのお書きのことはもっともなのですが、
私がいいたいのはもう少し別のところにあります。
ただし、それはこうした場では、残念ながらはっきりとは書けません。
投稿: 佐野竜介 | 2006年6月23日 (金) 23時37分